このページでは、心理カウンセラーに必要な「傾聴」と呼ばれる聴く技術について、心理カウンセリングを学び始めた方向けに解説しています。
傾聴という技法
聞く・訊く・聴く
キクと言う3つの漢字にはそれぞれ異なる意味があります。
- 聞く⇒「音」としてのキク
- 訊く⇒「尋ねる」意味でのキク
- 聴く⇒「積極的な姿勢」でキク
「傾聴」とは、積極的な姿勢で「聴く」ことを技術として体系化したものです。分かりやすいイメージとして「十四の心で耳を傾ける」とか「十の目と心と耳を傾ける」方法というように講義などで解説を受けることが多いと思います。
2種類の相談
- 答えが明確に提示できる相談
- 明確な答えがない相談
心理カウンセリングでは、2の相談がほとんどです。カウンセラーが相談者に答えを提示したり、自身の価値観や判断によって相談者にアドバイスをしていたのではカウンセリングとは言えません。相談者が自ら考え、答えを見つけるサポートにつく態度がカウンセリングや「傾聴」には必要な姿勢です。
傾聴とは
『相談者が自分自身で気づき、答えに達するまでの道を共に歩み付き合うこと』
傾聴は、人の話をただ聞くのではなく、相手に積極的に関心をもち、より深く、丁寧に耳を傾けることで、自分の訊きたいことを訊くのではなく、相手の思いや伝えたいことを受け止め、共感を示して真摯に”聴く“という態度のことです。
カウンセラーのおこなう傾聴には、心の浄化と言われる「カタルシス効果」など、治療的な効果が証明されています。また、カウンセリングの主要理論のひとつである「来談者中心療法」では傾聴を軸にした治療理論を技術的に示してくれています。
心理カウンセリングと呼べるレベルの「傾聴」には多くの訓練が必要になるのですが、「実際のカウンセラーがおこなう傾聴はどんな技術なのか?」という事について、次の項から具体的な方法の説明です。
傾聴の基本的な態度
基本的な態度とは、来談者中心療法の生みの親であるカールロジャーズが、心理カウンセラーがおこなう治療的な傾聴に不可欠とした「3つの態度条件」のことです。ロジャーズが提唱した3つの態度条件は、カウンセラーの心構えや姿勢であり必要条件とされています。
構えのない自分でいられること、自分の内面に起こる感情を否定したり歪曲したりせず、ありのまま認めていられること。
相手の存在に関心をもち、かけがえのない存在として尊重する態度。
その人の体験をあたかも自分の体験のように感じたり考えたりすること。
かかわり行動
続いて、相手を安心させ、話しやすい雰囲気を作るための「かかわり行動」と呼ばれる動作です。自然に目を見るとか腕組みするとか、何気ないカウンセラーの行動が相談者を不安にさせてしまうこともありますし、安心してもらうこともできます。最大限に話し手が安心できる状況づくりが傾聴のに必要なかかわり行動です。
視線を合わせる
- 自然に視線を相手に向ける、凝視するわけではないがなるべくそらさないようにする
身体言語に気をつける(態度は言葉以上にものを伝えます)
- リラックスしやや前傾姿勢になり関心を示す
- 足は床につける
- 腕を組んだりしない
言語的な応答
- 声のトーン/強弱(相手に合わせるとよい)
- 温かい表情をつくる
- 話の主導は相手にまかせこちらがしゃべりすぎない
- 話題を変えたり、さえぎったりしない
かかわり技法
ここからが話を聴くスキルです。「あいづち」を打つとか「うなずく」とか当たり前のようですが、しっかりと丁寧におこなうのはなかなか難しいです。
●うなずき・あいづち
話のペースに合わせてうなずく。どんな発言も受容し理解に努める態度で「はい」「ええ」などのあいづちを入れる。
●沈黙
相手が話の途中で沈黙したからといって不用意に話さない、相手の話に介入せず黙って聴く。話し手の自己洞察にもなる。
●くり返し
話のキーワードになる単語をくり返すことで聴いていることを伝える。
(例)相談者「・・何度も伝えました」⇒聞き手「何度も」
言い換え
『否定的な発言を肯定的な言い方に変えて伝え返す。』
例:「人の顔色を気にしてしまいます」→「相手の気持ちを大切にされている」
話し手が話した事柄(事実、出来事、状況など)のキーワードを捉えて、こちらが感じとった言葉で伝え返すことをします。この応答によって、話し手は自分の考えを整理し自己洞察につながります。また話し手と聞き手の関係を発展させます。
- 聞き手の価値観から評価しない。否定しないで受容する
- 話の内容やその意味するものを変えたり付け加えたりしない
- 本当に言いたいことは何か?ポイントに注意する※感情の表現は重要
感情への応答
『感情的な表現を注意深く聴きとり、くり返す。』
感情の表現には話し手の価値観や経験と密接に結びついています。感情表現を伝え返すことで話し手を安心させ無意識的な感情の理解を助けます。
感情の表現には言語化されていたり言語化されていなかったりします。感情を表す言葉を言っていなくても出来事の裏に感情が読み取れた場合は言語化して伝えます。
- 言語的:「悲しい」「楽しい」「辛い」「嬉しい」
- 非言語的:「視線の動き」「声のトーン」「姿勢」「表情」「身ぶり手ぶり」
- 今、ここでの感情が重要であり、過去の感情に囚われない
- 矛盾した複雑な感情でもそのままを受けとり伝える
- 機械的なくり返しを続けない
傾聴の訓練
大学などでおこなわれる傾聴の訓練方法を紹介します。
日常会話やテレビを見ている時でも意識をすれば傾聴力を磨くことができるので参考にしていただければと思います。
傾聴の訓練では話し手と聞き手、観察者と3役に役割を分担し実習をおこないます。
- 話し手:簡単な悩みごとなど好きな事を話す
- 聞き手:かかわり行動、かかわり技法などを意識して話を聴く
- 観察者:客観的な視点でやりとりを観察する
実習が終わるとそれぞれの視点から下記の点についてディスカッションします。
- 主訴:話し手が一番言いたかったことは何か?
- 見立て:カウンセリングの理論的な視点から※主訴に至った要因について
- 方針:今後、面接を続けていくにあたっての課題や方針など
- 反省点:かかわり行動がとれているか、技法を使えているか
※主訴:相談者が一番言いたいこと。相談の主題
日常の中で完璧な傾聴を求められる事はないですが、「目線を合わせる」「単語をくり返してみる」といった小さな行動でも話し手が受ける印象は大きく違ってきます。円満な夫婦関係のため、尊敬される上司になるため、日々のコミュニケーションに傾聴を取り入れてみてください。カウンセラーを目指す方は日々日々傾聴の訓練です。
傾聴は心理的な問題の治療にも有効です。しかしながら傾聴で解決できる問題は約30%と言われています。次のステップとしてさまざまな治療理論を学びカウンセラーとしての対応の幅を広げていきましょう。
▼ カウンセリング理論へ進む ▼
▼ 関連記事 ▼