行動療法の理論と技法を一覧で紹介
目次
行動療法
行動療法は、「人間の行動は経験に基づく後天的な学習の結果」と考える学習理論に基づいた心理療法の総称です。神経症・心身症・恐怖症などの不適応な行動は、過去の誤った学習や条件付けの結果と考え、再学習、再条件付けによって適応的な行動に変えていくと言うのが大まかな治療の概要です。
また、不適応な行動は生まれ持った素質ではなく、後天的に学習されたものであると考えます。したがって、学習の原理により適切に学習し直すことを治療と呼ぶのが特徴です。主にに条件付けの理論からさまざまな治療技法が開発されています。
現在では、保険診療で用いられる認知行動療法が広く注目されていますが、その基礎となる治療理論でもあります。
行動療法の特徴
- 人間の行動は過去の学習によるもの
- 観察可能な過程である行動だけが対象
- 比較的新しい心理療法であり、特定の提唱者がいない
- 他の心理療法に比べて時間がかからず費用も少なくすむ
- 認知行動療法の基礎理論
- イワン・パブロフ|古典的条件付け(1849~1936)
- エドワード・ソーンダイク|試行錯誤説(1874~1949)
- ジョン・ワトソン|行動主義心理学(1878~1958)
- バラス・スキナー|行動分析学(1904~1990)
- アルバート・バンデューラ|社会的学習理論/自己効力感(1925~)
行動療法の技法は精神科などの医療に留まらず、運転などの技能訓練や依存症などの改善、身体的・社会的なリハビリテーションから、障害を持つ子どもの療育、犯罪者への教育など、幅広い領域で用いられています。
行動療法の理論
行動療法の土台となる理論は、多くの研究者のさまざまな研究成果が総まとめになっています。このページで1つずつ紹介すると長くなるので簡単な概説を載せています。詳しくは各理論のページを参考にしていただきたいと思います。
理論①:学習心理学
学習心理学は、人や動物がさまざまな経験を通して学ぶことによって、行動を変容させていく過程を研究対象とする心理学のこと。
キーワード:ダーウィンの進化論、機能主義、行動主義、新行動主義、生得的行動、習得的行動、S-R理論、S-O-R理論
▼ 学習心理学の解説はこちら ▼
理論②:古典的条件付け
古典的条件付けは、「パブロフの犬」で知られる、イワン・パブロフの犬の唾液分泌実験が基になって誕生した条件反射を基にする考えです。リラックス法で知られる漸進的筋弛緩法や暴露法(エクスポージャー法)の基礎になっています。
キーワード:パブロフ、ワトソン、条件反射、各種の条件付け、ガルシア効果、漸進的筋弛緩法、暴露療法
▼ 古典的条件付けの解説はこちら ▼
理論③:オペラント条件付け
環境に対して自発的な行動をとることをオペラント行動と言い、行動を起こしたことにより起こった結果に応じて、その自発的な行動の頻度が変化する学習の仕組みをオペラント条件付けといいます。
道具的条件付けとも呼ばれ、バラス・スキナーのスキナー箱やエドワード・ソーンダイクの試行錯誤学習が基になっており、行動療法の技法の多くは、オペラント条件付けによるさまざまな学習の仕組みを基礎にして開発されています。
キーワード:スキナー、ソーンダイク、スキナー箱、試行錯誤、強化子、三項随伴性、さまざまな学習、シェイピング法、トークン、強化スケジュール
▼ オペラント条件付けの解説はこちら ▼
理論④:三項随伴性
三項随伴性は、オペラント条件付けを基にした理論で「人間がなぜ、どうして、その行動をするのか?」を、A:先行刺激、B:行動、C:結果という3要素から理解する考え方。
「三項随伴性は学習理論の中心概念であり、基本的にすべての行動を三項随伴性で説明しています。」
▼ 三項随伴性の解説はこちら ▼
理論⑤:社会的学習
人の経験は、本人が直接的に体験した直接経験と、他人の経験を見聞きした代理経験の2つがあります。社会的学習は後者の代理経験によって学習が成立する過程のこどで、他人をモデルにして学ぶことから「モデリング」と呼ばれます。
このモデリングによる社会的学習を理論的に説明しているのが、アルバート・バンデューラに代表される社会的学習理論と呼ばれる考えです。モデリングによる学習やバンデューラの提唱する自己効力感の理論は行動の強化に用いられており、多くの技法に組み込まれています。
▼ 自己効力感の解説はこちら ▼
理論⑥:行動療法から見た「人間」
『人間は生まれたときは白紙である』タブラ・ラサ
行動療法では人間を何も書かれていないノートのように捉えています。人間は、後天的な条件付け(体験)によって行動し、良いも悪いもこれまで何を学習し、ノートに何を記したかによってその人が決まるのです。つまり、環境が人を作るという考えです。
ワトソンが「私に健康な1ダースの赤ん坊と、彼らを育てるのに最適な場所とを提供してくれれば、私は彼らの才能とか生まれつきの傾向などとは関係なく、任意の1人をどんな人間にでもしてみせよう・・。」と豪語したことはとても有名です。
- ●望ましい人間:病理的な症状のない人間
理論⑦:行動療法から見た「性格」
人は環境から刺激を受けて、刺激に対して反応(行動)を起こし、その反応を学習します。行動療法からみた人の性格とは、刺激に対する反応が習慣化したものであり、そうした習慣の集合体だと考えます。
- ●望ましい性格:社会に適応した反応を学習し、それに沿った行動で欲求を満たしている。
- ●問題のある性格:望ましい性格の逆。適当な反応をするための学習が欠けている場合と、一つの誤った反応の学習が他の行動に影響している場合などが要因。
●小まとめ
行動療法は、学習心理学が歩んできたこれだけ多くの理論の上に成り立っています。それぞれの理論は独立しているようで全てつながりがあり、学習を重視するという根底があります。次に紹介する技法の一覧は、学習心理学の歴史の中で生み出されてきた行動療法そのものです。
行動療法の技法一覧
☆各技法の詳細はリンク先を参照
古典的条件付けベースの技法
オペラント条件付けベースの技法
- ●シェイピング法
- ●トークン・エコノミー法
- ●レスポンス・コスト法
- ●タイムアウト法
- ●刺激統制法
- ●バイオフィードバック法
- ●セルフモニタリング技法
- ●ソーシャルスキルトレーニング
- ●アサーショントレーニング
- ●強化スケジュール
- ●モデリング技法(社会的学習理論)
簡単に使える技法
行動療法は、しつけや指導といった日常的な技法も多く含まれているため、専門の療法士では無くても比較的容易に用いることのできる理論です。反論として、目に見える症状だけを対象にしているため、たとえ症状が消えても原因が消えていなければ、また別の症状が現れるという意見もあります。しかし、多くの場合、目に見える症状が取り除かれることでパーソナリティにも変化がもたらされるのは事実です。
行動療法は多様な学習理論と研究者の結晶です。その中で開発されたきた技法の数々は心理療法を越えて生活や社会を支えています。行動療法の紹介は以上です、ご閲覧いただきありがとうございました。
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