精神分析の理論とカウンセリング

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精神分析

精神分析的理論創始者:フロイト(Sigmund Freud)

「精神分析」は、フロイトによって始められた神経症の診断と治療技法。また、無意識の深層を分析する方法論です。フロイトによれば、精神過程は「意識」「前意識」深層である「無意識」の3層に分けられる。

抑圧された願望はその無意識の層に押し込められていると考え、それを対話や夢の分析、連想法などから発見し、意識化することで治療します。精神分析は、宗教や芸術などの解釈にも広く応用されており、心理療法の始まりと呼べる理論でありながら、現在でも主要な方法です。

フロイトについてフロイト生涯と功績

フロイト

精神科医が一人前の精神分析医になるまで10年はかかると言われるほど精神分析は難解な理論です。このページでは難解な精神分析の要点となる理論の概要を解説します。

精神分析の特徴

精神分析の特徴
  1. 人の行動は無意識の働きによって作られる。
  2. 幼少の時期(3歳頃まで/フロイト)の体験が性格を形成する。
  3. 神経症の治療技術として用いられることが多い。
  4. 人は本能(生の本能・死の本能)に従う生き物だとする。
  5. 洞察を主に権威的な立場に立ってクライエントに接する。

意識

【無意識の意識化】

精神分析では、幼いころに無意識の中へ抑圧した体験(記憶から消した嫌な体験)が現在の問題を引き起こしている原因だと考えます。

その治療は、抑圧してる過去の経験を呼び起こし、思い出させる方法を用います。思い出すことによって現在おこっている症状は自然と解消されていくとフロイトは考えたのです。

このことを「無意識の意識化」と呼んでおり、精神分析の中心となる考え方です。

精神分析から見た「人間」とは

本能に従う生き物

精神分析では、人間を犬や猫と同じ存在であると考えます。犬や猫は、生まれ持った「本能」によって行動をする生き物です。人間もまた生まれ持った「本能」に従い行動をしている存在だと捉えています。

また、本能には生の本能(エロス)と死の本能(タナトス)があるとされ、両者がバランスよく機能している状態が精神的に好ましいと考えます。

●生の本能(エロス)

エロスは性本能(種族保存の本能)を含む自我本能(自己保存の本能)に基づく欲求。

●死の本能(タナトス)

生の本能に対立し、常に破壊と死によって無機物の不変性に回帰しようとする欲求。

「生の本能」は、人間に生得的に備わっているが、人間の成長とともに次のような段階を経て発達する。

  1. 「口唇期」
  2. 「肛門期」
  3. 「男根期(エディプス期)」
  4. 「性器期」

そして、リビドー(性欲動)は、これらの各段階に対応した性感帯と、充足の目標ならびに対象をもつが、充足が十分に得られずリビドーが鬱積(うっせき)すると不安を生み出し「鬱積不安」と呼ばれる状態になります。

また、リビドーが特定の対象に向けられたままの状態にとどまっているとき、それを「固着」と呼んでいます。これは、さらに発達の逆戻りと言われる「退行」を引き起こすことになるのです。

このように、リビドーがそのエネルギーの放出先を断たれて蓄積されることで、やがて「神経症」の症状が形成されることになるとフロイトは考えました。

快楽原則と現実原則

人間は本能を満たすたすために行動をしますが、次の2つの原則に従うことになります。

「快楽原則」:(したいからする、言いたいから言う)

人間に生まれつき備わった無意識的、衝動的に、快楽を追求する精神傾向。

「現実原則」:(状況を考慮して慎重に行動する)

現実生活に適応するため、快楽的欲求を、一時的または永久にあきらめる自我の働き。

人間は「現実原則」に従い「快楽原則(欲求)」を満たす動物だと考えます。しかし、現実原則を学習していなければ、欲求に支配された動物です。子供はその代表ですが、学習の不十分な大人も同様です。

※快楽原則と現実原則が一致している状態を「昇華」と言います。

精神分析から見た人間の「性格」

人間の性格は、幼少期の家庭生活に左右され、これまでの人生経験の結果だと考えます。精神分析では「性格」の形成や構造、また動作や反応について次の4つの要因から説明しています。

  1. 性格の形成
  2. 防衛機制
  3. 人格構造(心的装置)
  4. コンプレックス

幼少期の性格形成

性格は幼少期の家庭生活に左右されるとお伝えしました、精神分析ではこの幼少期を口唇期から性器期までの段階でとらえ、各段階に問題があると特徴的な性格になると考えます。

  • 口唇期:小児性欲発達の第一段階。乳首などを吸う行為により、口唇に快感を得る。生後18か月ぐらいまでの時期。
  • 肛門期:発達の第二段階。排泄時の肛門刺激で快感を得ている、生後18か月から4歳ぐらいまでの時期。
  • 男根期:第三段階。性器が性感の場所になるが、性の対象を求めるに至らない3~6歳ぐらいの時期。(エディプス期)
  • 性器期:最も成熟した段階。性衝動のエネルギーが自分以外の対象に向けられる時期。思春期以後に相当する。
「口唇期性格」

口唇期に問題がある人依存的・甘えん坊

授乳(愛情)を拒否された体験は、人生はどれだけ愛情を求めても応えてくれることは無いと、人生に対しネガティブな性格を形成する。愛情飢餓。

逆に、いつまでたっても泣きさえすれば授乳してもらえる体験を重ねると、他人が良くしてくれるのは当たり前であるという態度を教育することになり、感謝を知らないわがままな人間に育つ。

「肛門期性格」

肛門期に問題のある人堅苦しい・融通が利かない

例えばトイレのしつけが厳しかった場合、排泄を嫌がり、やがて愛情や金銭を出すことを嫌がる人間になる。その逆の経験を重ねると、だらしのない性格を教育することになる。

「男根期性格」

男根期に問題のある人男性・女性らしさがない

男根期に本人の性を否定される経験を重ねると男として、また女としての魅力の乏しい性格を形成する。例えば「おまえはそれでも男か!?」→男に生まれたことを喜べない→男らしさが育たない「女のおまえには無理だ!!」→女に生まれたことを喜べない→女らしさが育たない

「性器期性格」

健全な性格

口唇期、肛門期、男根期の各時期に起こる問題を乗り越え最も成熟した段階であり、目標となる性格。思春期以降、不安や迷いなく異性と感情交流が持てることは各段階で問題を持ち越していない指針となる。

防衛機制

形成された性格はどう作動し、環境に対してどう反応しているのか。その反応を性格として捉え主に、欲求不満や葛藤などから無意識に自分を守ろうとして働く適応のしかたを防衛機制と言います。

防衛機制について詳しく防衛機制の一覧と例文

主な防衛機制

  • 逃避:困難などに直面したときに無意識に意識しないようにしたりして、それを避けること。
  • 抑圧:不快な観念や表象・記憶などを無意識のうちに押し込めて意識しないようにすること。
  • 置き換え:ある対象に向けられた欲求衝動を他の対象へ置き換えること。
  • 知性化:知的な言葉を用いて説明したり議論したりすることで強い感情に直面することを避け衝動を統制すること。
  • 昇華:性的エネルギーが、性目的とは異なる学問・芸術・宗教などの活動に置換されること。※望ましい
  • 合理化:たとえば言い訳のように、理由づけをして行為を正当化すること。
  • 投影:考え方や行動に心の内面が表現されること。自分の性質を他人の性質にしてしまうこと。
  • 反動形成:抑圧された欲求と反対傾向の態度が強調して示されること。
  • 同一視:区別のある自分と他人を混同すること。(投射/投入)
  • 退行:困難な状況に遭遇したとき、精神発達上より未熟で幼稚な段階の行動を示すこと。

防衛機制の働かない人間は存在しません、合理的な防衛がおこなえていないことが問題となります。例えば、神経症の場合、不必要に防衛へエネルギーを使いすぎるため、必要なエネルギーが足りていません。

人格構造(心的装置)

性格(人格)はどう構成されているのか。精神分析では、心を一つの装置のようなものと考え、この装置は、エス、自我、超自我という3つの領域から形成されていると考えます。

エス

本能的衝動=野性的=生命力=快楽的

エス(イド):意識的に統制することのできない未知の力によって規定されていることを表しその意味は、生得的な衝動のようなものを意味する。※エス(Es)は、ドイツ語の非人称代名詞。イドはそのラテン語。

自我

現実判断=学習の結果=柔軟性=欲求耐性

自我:エス・超自我を統制し現実の環境に適応すべく行動する領域。人格の中軸にあって、全体の調和、統制を図る機能をもつとされる。(自我が強い=腹黒い、冷たい・自我が弱い=気が弱い、わがまま)

超自我

道徳性=良心=罪悪感=価値観の保持

超自我:自我の一部として最終的に形成された領域。両親との権威性を内面化したものといわれており、両親の言動から感じ取った個人的・社会的価値の取り入れ。本能的衝動をある程度抑圧するための検閲を行う作用をもっている。(超自我が厳しい=自己非難・超自我が未発達=ずうずうしい、恥知らず)

人格構造から性格を捉える場合、エス、自我、超自我、3つのバランスから性格を考えます。健全な性格の基準は、3つが量的に適当であって、バランスがとれている状態です。

コンプレックス

コンプレックスと言うと一般的には劣等感を指す言葉ですが、精神分析では情緒的に強く色づけされたシンボルの複合とされ、抑圧されながら無意識のうちに存在し、現実の行動に強い影響力をもつものと考えます。

コンプレックスは性格においてクセや片寄りの原因となります。性格のクセは誰にでもあるものですが、コンプレックスは無意識の中に存在するため、良くないクセであっても、その原因(コンプレックス)に気づくことが難しいのです。

主なコンプレックス

1.エディプス・コンプレックス

男根期(3歳~6歳)に男子が、同性の親である父を憎み、母に対して性的な感情を抱く無意識の傾向であり、女子は、男根羨望(せんぼう)をもつ、その結果として母親を敵視し、父親の愛情を独占しようとする傾向のこと。

エディプス・コンプレックスは、精神分析においてとても重要な概念です。それは、神経症の病因とみなされるものが、すべてこのコンプレックスと密接な関係があると考えられているためです。エディプス・コンプレックスをいかに克服し、清算できるかが焦点となります。

エディプス・コンプレックスを詳しくエディプス・コンプレックスとは

2.カイン・コンプレックス(同胞葛藤ともよばれる)

兄弟間の競争心、敵意、攻撃のことを意味し、親の愛情や承認を独占しようとする欲求。兄弟コンプレックスともよばれるが、エディプス・コンプレックスの一側面を強調するものである。フロイトは、文豪ゲーテの幼児期の記憶をもとに、一見いたずらとみられるような子供の行為に同胞に対する無意識的な嫉妬、憎しみ、排除の願望が隠されていることを明らかにしている。

3.ダイアナ・コンプレックス

男性でありたいという女性の抑圧された男根羨望

女性が男性に負けたくないという無意識にある潜在感情のことで、ダイアナ・コンプレックスを持っていると、仕事で男性に対するライバル意識が非情に強かったり、肉体労働など男性的な仕事を好む。また、女性らしさを隠し男性的に振る舞う傾向があり結婚にも消極的な考えを持つことが多い。

4.スペクタキュラ・コンプレックス

男女が異性の裸を見たい・見せたい心理

スペクタキュラは英語で「見世物的な」という意味。

男性:見たいは外向性=「手に入れたい」愛したい

女性:見せたいは内向性=「受け入れてほしい」愛されたい

男性は女性の裸を見たい、女性は男性に裸を見せたい。その欲望にまかせてそのまま行動すると社会に認められないため抑圧したり歪曲するかたちで表現される。その葛藤が人の行動をさまざまに変化させ行為の基準を定めると言われています。

5.劣等コンプレックス

自分をよく見せようとしたり、逆に失敗して傷つくのを恐れたりするといった劣等感情から起こる反応

人が成長過程で経験した挫折から生じたり、容姿や能力が自分の理想や社会の流れと一致しないことなどが原因で起こります。特に思春期に多くの劣等感が生じます。

劣等感は、嫉妬や憎悪にかわって犯罪につながったり、憂うつ感情からうつ病や社会不適応の症状を生じることがあるので重要な視点と考えられています。

精神分析のカウンセリング

  • 目標:無意識の意識化
  • 技法:自由連想法・夢分析・解釈・洞察(面接技法)
  • 重視:転移・逆転移・抵抗・退行

自由連想法

自由連想法を用いたカウンセリング:自由連想「約40分」+COの解釈「約10分」

自由連想法は精神分析の主要技法

スタンダードな方法としては、クライエントが寝椅子に横たわり、心身リラックスした状態で、何気なく心に浮かんできた感情や事柄など自由に語るように要求する方法です。

出来る限りリラックスした状態で無意識にアクセスしやすくし、意識した言葉ではなく直感的に感じたことを言語化してもらいます。例えば、窓の外の雲から空を連想し、空から水色が浮かび、といった連想を、クライエントがカウンセラーに語る。

それをさらに連想でつないでいくことによって、過去に抑圧された無意識を意識に上げていく。これが精神分析の治療理論である無意識の意識化であり、問題を解消する方法です。

※対面による対話においても自由連想法と類似の効果があると考えられるようになったため寝椅子を用いた自由連想法が使われることは少なくなっている。

【解釈】

クライエントの語った内容に対してカウンセラーが心理学的な見地から感じ取った事柄を伝えること。解釈が受け入れられると、感情表現が豊かになるなどの効果があり、より深層の分析が可能になる。

その反面、クライアントの語った連想や夢に対する解釈の内容が過剰であったり、不足しているなど、不適切な解釈をおこなった場合、CLを混乱させ問題を悪化させる危険を含む。

面接過程の現象

面接過程において、いくつかの特徴的な現象がおこることがあり、精神分析ではそれらの現象を重視しつつ面接を展開していきます。

【転移】(感情転移)

クライエントが自分にとって重要だった人物(多くは両親)に対して持っている感情を、目の前のカウンセラーに向けること。転移は、クライエントが持っている心理的な問題と深い結びつきがあると考え、転移の出所を解釈することは精神分析の根幹とされている。

陽性転移』例:父親に甘えたい気持ちを同年代の男性であるカウンセラーに向ける

陰性転移』例:酷いフラれ方をした男性が彼女に対する怒りを女性カウンセラーに向ける

ある人に対するポジティブな感情やネガティブな感情をカウンセラーに転移させることで、カウンセラーはクライエントに新しい対人関係のパターンを創造させるための対象になります。そのためカウンセラーはクライエントから向けられた第三者に対する感情を解釈しつつありのまま受けとります。

【逆転移】

転移とは反対にカウンセラーがクライエントに対して転移を起こすこと。フロイトは逆転移は治療の障害になるため排除するべきものであり、カウンセラーはクライエントの無意識が投映されやすいように、白紙のスクリーンにならなければならいとしている。

:若い女性のクライエントに自身の長女に対する感情を向ける

カウンセラーは自らの内面で起こっている転移を正確に把握している必要がある、転移に気づきフラットに戻さなければならない。

【抵抗】

心理的問題の解決のために治療者のもとを訪れたにも関わらず、治療過程が進むことを無意識的に拒んでしまうこと。(理由なく遅刻をする。話が抽象的など)これは、無意識に目を向けることには苦痛が伴うために起こると考えられている。この抵抗をいかに乗り越えるかが、精神分析の重要な局面となる。

【退行】

発達した精神が、以前に経過してきた地点に回帰する現象。健康また病的な退行の基準は、退行状態から正常な精神状態に立ち返る事が出来るかどうかである。また、面接過程において自然と精神は未熟な精神の発達段階に退行する事があり、これを治療的退行と呼ぶ。治療的退行は、精神分析の治療に欠かせない要素となっている。


無意識と言う目に見えない世界を取り扱う精神分析はとても興味深いと思います。ここまで目を通していただけたのであれば、専門書などを通して、さらに学びを深めてみてはいかがでしょうか。精神分析の概要説明は以上です。閲覧いただきありがとうございました。

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