特性・因子理論とは、心理テストを用いたカウンセリングの理論です。
心理テストは、ある課題に対する反応やその内容、また課題を解決するまでの過程から個人の能力や性格などの特徴を明らかにします。カウンセラーにとってはクライエントの状況を理解し、必要な援助を判断するために有効な手段の一つであり、クライエントにとっては自己理解を深め、気づきを得る助けとなる方法です。
- 特性⇒測定が可能な反応
- 因子⇒特性の背景であり、無意識的・抽象的なもの
診断の対象:知能・適正・学力・興味・態度・価値観・創造性・性格・人間関係
目次
心理テストと職業選択
キャリア開発や職業選択に有用な理論
特性・因子理論では個人のパーソナリティは「知能」「興味」「価値観」「性格」といった特性が束になったものだと考えます。特性は人によって優劣や異なりがあるため、適職・天職といった個人の特性に合った職業を選択することが重要になってきます。また、パーソナリティに適さない職業を選択することは、病理的症状を引き起こす原因になると考えます。
カウンセラーは、さまざまな測定(テスト)から得られた情報を提供すると共に、クライエントに寄り添い、気づきと選択の援助をします。また、心理テストを実施することで、その人の能力や興味を明らかにし自己理解を深めます。
こうした一連の流れが、適材適所という考えにおける健全な職業選択を助け、個人の成長を援助するのです。そうした理由から心理テストは職業選択の場で広く用いられています。さらに心理テストはクライエントからの評価が高いという実施上の利点があります。
心理テストの有効性
- Coの一方的な印象や考察よりも、科学的で客観性のある診断ができる。
- 診断によって得られた特徴から面接や指導の指針が得られる。
- 一人のカウンセラーが扱えるクライエントの数が増える。
- 短時間でさまざまな側面の診断ができる。
- 無意識的な欲求など深層心理の診断が可能。(投影)
- Clの抱える問題の中には客観的な資料がなければ援助が難しいことがある。
- 面接ではわからないことが診断できることによって柔軟な対応ができる。
- テストによっては実施するだけで問題を解決させる効果がある。(絵画統覚)
- Clの自己分析の手がかりとなり自己決断をうながす刺激になる。
心理テストの危険性
- いわゆる「占い」に見られるように、診断者への依存心を助長する。
- 構成や原理を理解していない未熟な診断でClの人生を狂わせる危険がある。
- 信頼性の乏しい心理テストも多い、例外や誤りのないテストは存在しない。
- 気分・状態・知能・能力・年齢、さまざまな側面を加味する必要がある。
- いくつかのテストは査定が難しいため、容易に用いることができない。
- 年齢や状態(症状)によって実施できるテストが限られる。
心理テストを用いるにあたっての注意と心掛け
面接の過程から使用目的を明確にし、クライエントの求める心理テストを実施する。
- 必要性の確認とラポールを築くために心理テストを実施するまでには、ある程度の面接をおこなう。
- カウンセラーがテストの実施を提案することもあるが、クライエントが必要性を感じなければテストの結果は信頼できない。
- クライエントが自発的にテストを希望するならば、実施する目的を明確にしなければ結果はムダなものになる。
十分な知識と経験をもとに十分なフィードバックをおこなう。
- 標準化されたテストでも、それひとつでは十分な診断ができるとは限らない、そのため複数のテストを組み合わせることも必要になる。
- テストの結果を伝えるだけではクライエントに劣等感を植えつける可能性が高いため、テスト後は必ずフィードバックと面接をおこなう。
- テスト結果は幅を持って控え目に伝え、クライエント自身の解釈を中心に良い点をフィードバックする。
テスト結果を安全に伝えるための注意点
- テストの良い結果を中心にフィードバックする。
- 一方的な解釈は避け、クライエントの考えや感情に焦点をあてる。
- 決して専門用語やクライエントの分からない言葉を用いない。
テストの紹介
テストと一言にしてみても「発達」「知能」「学力」「運動」「知覚」「感覚」「人格」などに分類され、検査の目的や測定の対象によってさまざまなテストが存在します。
ここで紹介するテストは、カウンセリングの場で用いられることのある「人格」や性格の測定を目的とした、カウンセラーとして知っておきたい心理テストをいくつか紹介します。
一人でも実施が可能なテストもありますので、興味があれば試してみたり、より深く学んでみることも良いと思います。また、1つのテストに依存するよりも複数のテストを組み合わせることで、広い角度からの測定が可能になり、妥当性の高い結果を得ることが出来るでしょう。
☆質問紙法
- 矢田部・ギルフォード性格検査 (YG性格検査)
- エゴグラム(東大式エゴグラム)
- ミネソタ多面人格目録(MMPI:Minnesota Multiphasic Personality Inventory)
☆投影法
- ロールシャッハテスト(Rorschach test)
- 主題統覚検査(TAT:Thematic Apperception Test)
- 文章完成テスト(SCT:Sentence completion test)
- PFスタディ(Picture-Frustration Study/欲求不満検査)
- バウムテスト(Baumtest/樹木画テスト)
☆作業法
- 内田クレペリン精神検査(Uchida-Kraepelin’s PerformanceTest)
矢田部・ギルフォード性格検査 (YG性格検査)
もっとも有名で信頼性の高いテスト
心理学者ギルフォード(Guilford,J.P.)の考案した「人格目録」をもとに、
矢田部らが、日本版の「矢田部・ギルフォード人格目録」(YGテスト)を開発した。
この検査は、質問紙に記載された120の質問に答えることによって12の尺度を測定し、その傾向から「平均型」「不安定・積極型」「安定・消極型」「安定・積極型」「不安定・消極型」に分類され類型的な判定が可能なテストです。
日本では、信頼性の高いテストとして臨床の場面から教育、産業の場面まで広く普及しており、一般的な心理査定として知られています。
- 対象年齢:10才~
- 所要時間:約30分
- 査定方法:質計120の質問に「はい」「いいえ」「どちらでもない」で回答
12の尺度と5つの性格類型
- D:抑うつ性(Depression)
- C:回帰性傾向(Cyclic tendency)
- I:劣等感(Inferiority feelings)
- N:神経質(Nervousness)
- O:客観性(Objectivity)
- C:協調性(Cooperativeness)
- Ag:愛想のよさ(Agreeableness)
- G:一般的な活動性(General activity)
- R:暢気さ(Rhathymia)
- T:思考外向性(Thinking extraversion)
- A:支配性(Ascendance)
- S:社会的外向性(Social extraversion)
「YG性格検査の表紙」
- 出現率(平均)
- A型 平均(Average) 22.0%
- B型 不安定・積極型(Blacklist) 14.9%
- C型 安定・消極型(Calm) 18.8%
- D型 安定・積極型(Director) 32.7%
- E型 不安定・消極型(Eccentric) 11.5%
エゴグラム(東大式エゴグラム)
エゴグラムとは、エリック・バーンの交流分析をもとに弟子のデュセイ(Dusay,J.M.)らが開発した分析法である。日本では、東大式エゴグラム(TEG)などが開発され臨床や自己分析に用いられている。
エゴグラムは、交流分析における各自我状態へのエネルギーの割り振りを視覚的に観察できることが特徴であり、対人関係における在り方を明らかにすることが、主な査定の目的。
交流分析はこちら⇒交流分析
- 対象年齢:15才~
- 所要時間:約15分
- 査定方法:質問紙の計60の質問に「はい」「いいえ」「どちらでも」のいずれかを選択する。
「成人の平均的なエゴグラム」(TEG)
日本では東大式エゴグラム(TEG)によりグラフで表示することが考案されたことで自己分析法として広く一般に知られるようになりました。それぞれの要素は必ずしも高ければよい、または低ければよいというわけではありません。あくまでも人格のパターンを表したものであり、人の優劣を表すものではないが、一般に縦軸の数値は心的なエネルギーと比例しやすく、それぞれの要素がバランスをとっている状態が理想的とされます。
普通、子供の頃はCPやNPが低くFCやACが高いため右上がりになり、年を重ねるとCPやNPが高くなりFCやACが低くなる。一般的に、日本人ではNPが最も高い山型で「へ」の字型が最も多くかつ理想的とされています。欧米ではAが最も高い山型が最も多くかつ理想的であるとされている様です。
自我状態
P「親の自我状態」
育ててくれた人の影響を受けて取り入れた考え方や行動。親の自我「P」は、父性的な自我である「CP」と母性的な自我の「NP」がある。
- CP(父性):批判・道徳「~すべきだ」「それは当然だ」
- NP(母性):優しさ・保護「~してあげる」「私に任せて」
A「大人の自我状態」
知識・経験から冷静に判断する、データ処理をするように思考するコンピューターのような部分。Aが高いと冷たい人と思われやすい。
C「子供の自我状態」
本能的な行動。子供のころの感覚を残している部分。子供の自我「C」は、自由な子供の「FC」と順応な子供の「AC」がある。
- FC(自由):自己表現する。わがままな子「ワーキャー」「欲しい」「嫌い」
- AC(順応):自分を抑える。ひかえめな子「我慢強い」「自信がない」
カウンセリングとしてのエゴグラム
交流分析のページを参照⇒交流分析
ミネソタ多面人格目録(MMPI)
ミネソタ多面人格目録(MMPI:Minnesota Multiphasic Personality Inventory)は、1943年に心理学者ハサウェイ(Hathaway, S. R.)と、精神医学者マッキンリー(Mckinley, J. C.)によって開発された「質問紙法」による心理査定で、本国アメリカなど英語圏の国を中心に、90以上の国で用いられる世界的に使用頻度の高い検査である。日本では、1993年に「MMPI新日本版」が発表された。
MMPIは、検査の妥当性を測定するために4つの尺度を査定し、10の臨床尺度(「心気症」「抑うつ」「ヒステリー」「精神病質的偏奇」「パラノイア」「神経衰弱」「統合失調症」「軽躁病」 「男性性・女性性」「社会的内向性」)によって、各尺度の傾向と性格特性を査定する。
- 対象年齢:15才~
- 所要時間:約60分
- 査定方法:質問紙の550項目の質問に「あてはまる」「あてはまらない」「どちらでもない」のいずれかを選択する。
妥当性の尺度
臨床尺度のほかに、検査の妥当性を測定する「?」「L」「F」「K」の4つの妥当性尺度(validity scales)が設定された。
- ?尺度(疑問点) - :「どちらともいえない」と答えた項目の数、高いほど妥当性が低く拒否的。
- L尺度(虚構点) 15項 :Lはうそ(Lie)を表し、自分を社会的に好ましく見せようとする構え。
- F尺度(頻度点) 64項 :出現率の低い回答をした数、高いほど信頼性が低い。
- K尺度(修正点) 30項 :検査に対する警戒の程度を調べるもので、高いほど防衛的。
高得点はテストに対する防衛的態度、低得点は率直さと自己批判的態度を表す。また、臨床尺度の修正点として使われる。
臨床尺度
各尺度の傾向が異常に高いときに用いられる病理学的類型によって尺度名が付けられている。
- Hs 心気症 33項 :健康状態に対する心配の度合
- D 抑うつ 60項 :不満な状態や不適応、抑うつの傾向
- Hy ヒステリー 60項 :転換症状の起こしやすさ、感情の対処法
- Pd 精神病質的偏倚 50項 :権威に逆らう傾向、反社会的な態度
- Mf 男子性・女子性 60項 :男性らしさ(女性らしさ)と性役割観
- Pa パラノイア 40項 :猜疑心、妄想の傾向
- Pt 精神衰弱 48項 :神経症的な症状の傾向
- Sc 精神分裂 78項 :疎外感、幻覚妄想
- Ma 軽躁病 46項 :活動の傾向
- Si 社会的内向性 70項 :社会、人への接触を避ける傾向
ロールシャッハテスト
ロールシャッハ・テストは、スイスの精神科医ヘルマン・ロールシャッハ(Rorschach,H.)によって創案され、「投影法」の代表的な性格検査法として知られています。検査の方法としては、被験者に左右対称のインクのしみを見せ、それから何を想像するかによって性格、感情、対人関係、自己認知といったパーソナリティを分析します。
- 対象年齢:5才~
- 所要時間:約50分
- 査定方法:左右対称のインクのしみを見せ、それから何を想像するかによって人格を分析する。
このような図版は簡単に作成できるが、現在でもロールシャッハによって作成された図版が用いられる。カードは10枚1組で、このうち5枚が無彩色で、5枚が有彩色のカード。サイズは約17cm x 24cm
テストの方法
- 反応:カードを1枚ずつ示し、しみが何に見えるのかを自由に回答する。
- 質疑:どこがどのように見えたかなどを確認し、反応時間、反応内容を測定。
- 決定:どの部分が?どのような特徴からそう見えたのか?
投影法は、結果の分析に高度な技術を必要とするが、ロールシャッハ・テストは1920年代に開発されて以来、テスト結果の分析とデータベース化が進んでいるため、標準化された評価もある程度可能になってきている。
主題統覚検査(TAT)
TAT(Thematic Apperception Test)は、モーガン(Morgan,C.D.)とマレーによって考案された「投影法」の心理検査。日常生活を連想させる絵画を見せて、人物の感情や過去・現在・未来について自由に物語をつくってもらい、その物語を分析することで、人物に同一視されたクライエントの欲求やコンプレックスなどの問題を把握する。主に治療機関・鑑別所・児童相談所などの場で、問題児の臨床的なテストに用いられる。
- 対象年齢:7才~
- 所要時間:約60分
- 査定方法:特定の絵画を見せて、人物の思考や感情、過去・現在・未来について自由に物語を語ってもらう。
物語を分析することで、欲求や葛藤、コンプレックスを明らかにする。
※児童版にCAT(7~10才)、老年者版にSAT(65才以上)がある。
文章完成テスト(SCT)
- 対象年齢:8才~
- 所要時間:約45分
- 査定方法:「私の父は_」「私はよく_」と言った短い刺激文に続く短文を書いてもらい、個人の性格傾向や社会的態度を査定する。
文章完成テスト(SCT:Sentence completion test)は、文章完成テストと呼ばれる「投影法」の心理検査で、下記のような刺激文を提示し、被験者は未完成の文章を自由に連想し完成させます。
刺激文の構成により、自己概念や価値、対人関係など性格傾向から現在の問題まで個人のパーソナリティを幅広く把握します。
- もし私の父が _____。
- 私はよく人から _____。
- これからは _____。
- 年をとると _____。
PFスタディ(欲求不満検査)
- 対象年齢:4才~
- 所要時間:約20分
- 査定方法:欲求不満場面の絵を見てイラストに言葉を書き込む。
PFスタディ(Picture-Frustration Study:欲求不満検査)は、S.ローゼンツヴァイクが開発した「投影法」に含まれるテストで、日常の欲求不満やストレスへの反応パターンから個人のパーソナリティを明らかにします。
テストは24種の日常的な欲求不満場面の絵を用います。それぞれの絵は共通して、右側の人物が何らかの不満状態を示しているので、被験者は吹き出しの中に自分の思うように自由に言葉を書き込みます。
バウムテスト(樹木画テスト)
バウムテスト(Baumtest)は、スイスの心理学者コッホ(Koch,K.)によって考案された「投影法」に分類される性格検査です。被験者に画用紙と鉛筆と消しゴムを使って一本の樹木を描かせます。描かれた樹木の「大きさ」「筆圧」「ライン」の特徴や、樹木とその他の象徴、を観察し「空間図式」を用いて性格診断を行います。
個人のパーソナリティの把握から精神的な発達の段階、心理的問題の理解に役立ちます。また、実施方法が簡単であるため児童相談や病院などで実施されることの多い検査です。
- 対象年齢:3才~
- 所要時間:約20分
- 査定方法:用紙に鉛筆で樹木、もしくは実のなる樹木を描かせるテスト。
内田クレペリン精神検査
- 対象年齢:13才~
- 所要時間:約40分
- 査定方法:1桁の足し算を1分ごとに行を変えて合計30分間行い、能力や性格を総合的に測定する。
内田クレぺリン精神検査(Uchida-Kraepelin’s PerformanceTest)は、ドイツのクレぺリン(Kraepelin,E.)の研究をもとに、内田勇三郎が独自に研究を重ね標準化させた「作業法」に分類される心理テストです。
テストでは、1桁の足し算を1分ごとに行を変えながらくり返し、前半15分、後半15分の合計30分間おこないます。その結果として現れる作業曲線を査定することで、主に仕事の「積極性」「意欲」「行動力」「処理能力」を中心とした性格の傾向を測定します。日本ではとても知られたテストであり、企業や教育の場で広く用いられています。