不安やストレスから身を守るメカニズム、無意識の中で働く「防衛機制」をご紹介
目次
防衛機制とは
フロイトの精神分析から誕生した考えで、本能的衝動である「エス」と道徳性や良心である「超自我」との間で、現実判断や統制をおこなっている「自我」が、自らを守るために備えている防衛メカニズムが「防衛機制(ディフェンス・メカニズム)」です。
この防衛メカニズムは、ありのままに受け止めると「苦しい」「辛い」「耐えられない」ような現実(体験や記憶)から身を守るために働きます。例えば、直視できない苦しい経験をなかったことにする、嫌なことからは目をそらし、忘れてしまう。というのが、防衛機制でもっとも使われる「抑圧」です。そのほかにも現実を歪曲したり無視したりとさまざまな働きをします。
自我とは言わば「こころ」です。人は防衛機制の働きによってこころの健康を保っているのですが、防衛機制は現実を都合よく歪めてしまうため、働きが強すぎると社会に適応できなくなることや、神経症の原因になるのではないかと考えられています。
- ジークムント・フロイト:精神分析の創始者
- アンナ・フロイト:フロイトの娘で、幼児の防衛機制について研究をおこなった。→著書「自我と防衛機制」(The Ego and the Machanisms of Defense) 1936
- ハインツ・ハルトマン:アンナ・フロイトに並び自我機能の研究で知られる人物
防衛機制の一覧と例文
抑圧
精神分析の基本概念の一つで、防衛機制のメインとなる働きが抑圧です。不快な体験や考えを無意識に押し込み、忘れさせるこころの働きをします。
※意識的な抑圧は「抑制」という。
例1:恋人に借りた本を紛失した
例2:楽しみにしていた旅行の日程を忘れる
例3:虐待を受けた体験を忘れる
抑圧の具体例など、もっと詳しく⇒「抑圧とは|防衛機制こころのメカニズム」
昇華
性的欲求や攻撃的欲求といった反社会的で認められない強い感情や欲求を、社会的・道徳的に認められる形に置き換えること。主にスポーツや芸術、仕事や学業へ衝動欲求を転換する。
例1:失恋してマラソンを始める、仕事にがむしゃらになる。
例2:破壊衝動を野球(部活)に向けて解消する。
昇華とは⇒「昇華とは|心理学用語」
置き換え
特定の人物や物などに向けられた欲求や感情の表現が難しい場合に、対象を別の人物や物に置き換える行動。
八つ当たりや妥協するといった行動。
例1:上司に対する不満や怒りを家庭に持ち帰り妻にあたりちらす。
例2:子供が独り立ちした親がペットを溺愛する。
逃避
面倒に感じることや向き合うことが困難な現実から目をそらし、別の現実や空想へ目を向けること。明日までにレポートを作成しなければいけないのに部屋の掃除に時間を費やすといった行動。
例1:試験の前日に部屋の掃除に時間を費やす。
例2:学校に行きたくないから体調を崩す。
逃避とは⇒「逃避とは|心理学用語」
退行
未熟な発達段階に戻り、子どものような言動をとることで不安を避けようとする行動。
※逃避に含まれる
例1:赤ん坊のように振舞って親の気を引こうとする。
例2:指をしゃぶるなど幼い子供の行動をとる。
反動形成
無意識の中に抑圧されている強い感情や衝動が、意識できる側面で正反対の傾向となって行動などにあらわれること。強い憎しみを抱く相手に対して、好意的に愛想よく振る舞ったりする。
例1:好きな相手にイジワルする
例2:人が嫌がる仕事を喜んで引き受ける
反動形成とは⇒「反動形成とは|心理学用語」
合理化
満たされない欲求に都合の良い理由を付けることで、自分の失敗や好ましくない体験を正当化しようとすること。
例1:イソップ物語「すっぱいブドウ」:手の届かないブドウはすっぱいブドウだと自分に言い聞かせる。
例2:「彼が私をフッたのは、女を見る目がないからだ。」
同一化
自分の尊敬する人や理想とする人の振舞いや特徴を真似て欲求を満たそうとすること。
※他者の考えや状況を自分の体験であるかのように思うことを「同一視」という。
例1:ビジュアルバンドのファンが髪型や衣装を真似る。
例2:映画の主人公の口癖を真似る。
同一化とは⇒「同一化とは|心理学用語」
投影
自分の中にある受け入れたくない不都合な感情や衝動を、他人のものだと思うこと。
例1:「彼女は私を嫌っている」⇒自分が相手に抱いた感情を相手のもだと思い込む。
例2:「あいつは傲慢だ」「彼が浮気をしないか心配」⇒自分の特性や願望を相手のもだと思い込む。
投影とは⇒「投影とは|心理学用語」
隔離
自分の行動などに関連する気づいているが受け入れがたい事実や感情を意識しないこと。切り離したり逃れようとすること。
例1:動物愛好家が肉料理を食べる。
否認
認めたくない現実、不快な体験や欲求を無意識的になかったことことにしてしまうこと。視界に入っているが見えていない、聞いているが聞こえていない、知っているはずが知らないといったように、その現実や体験を存在しなかったことにする。
例1:「医者は間違っている。私はアルコール依存ではない!」
例2:狂信的になり特定の人物の言葉以外の現実を認めない
否認とは⇒「否認とは|心理学用語」
打ち消し
不安や罪悪感を生じさせた行為をやり直したり、反対の行為をとって無効にしようとすること。
例1:浮気をした罪悪感から夫の機嫌をとる。
例2:受け入れたくない相手との性行為を忘れるために複数の相手と関係を持つ。
打ち消し(取り消し)とは⇒「打ち消し(取り消し)とは|心理学用語」