学習理論の基礎、古典的条件付けの紹介
目次
古典的条件付け(レスポンデント条件付け)
古典的条件付けは、「パブロフの犬」で知られる、イワン・パブロフの犬の唾液分泌実験が基になって誕生した理論です。また、行動主義心理学で知られるジョン・ワトソンもパブロフの条件反射説に影響を受けS-R理論(後に否定される)を提唱するなど、古典的条件付けの研究で知られる人物です。
1.イヌにベルの音を聞かせる
2.イヌにエサを与える
3.1と2を繰り返す(条件付け)
すると、イヌはベルの音を聞いただけで、唾液を出すようになる。
イヌはベルの音でエサが貰えると学習し、反射行動を起こすようになった。この反射行動は実験によって後天的に獲得されたもので条件反射と呼び、先天的な反射行動のことを無条件反射といいます。
条件反射の例(後天的)
⇒梅干を見ると、唾液が出てくる。
無条件反射の例(先天的)
⇒熱いものに触れたときに手を引っ込める。
⇒転びそうになった時、手を差し出す。
古典的条件付けのモデル
古典的条件付けの仕組みをパブロフの犬を例に整理すると以下のようになります。
- 無条件反応(UR)=よだれ「先天的な反射」
- 無条件刺激(US)=エサ「URを誘発する刺激」
- 条件反応(CR)=よだれ「CSにより起きる反応」
- 中性刺激=ベル「なんの関連もない刺激」
- 条件刺激(CS)=ベル「USと対提示による条件付けでCRの誘発刺激に」
「無条件刺激に条件刺激を対提示することにより、条件反応を形成し中性刺激が無条件反応を誘発する刺激になる手続き」
いろいろな条件付け
●同時条件付け
条件刺激を提示してから無条件刺激を5秒以内に対提示し、その後それぞれの刺激を同時に終了させる方法。条件反応の形成に最も適した方法とされる。
例:ベルの音を鳴らし始めて5秒以内にエサを与える
●遅延条件付け
条件刺激を提示してから無条件刺激を5秒以上経過してから対提示する方法。同時条件付けに比べて条件付けは弱くなる。
例:ベルの音を鳴らし始めて5秒以上たってからエサを与える
●痕跡条件付け
条件刺激の提示を終了させ一定時間たってから無条件刺激を提示する方法。中枢神経系(感覚器からの情報)の痕跡を利用するため痕跡条件付けと呼ばれる。
例:エサを与える前にベルの音を停止して1分後にエサを与える
●時間条件付け
無条件刺激のみを一定の間隔で提示する方法。内的刺激(欲求や時間感覚)が条件刺激として機能する。
例:4時間おきにエサを与える
●逆行条件付け
無条件刺激が提示された後に条件刺激が提示される。この方法では条件反応が起こりません。
例:エサを与えた後にベルを鳴らす
●恐怖条件付け(アルバート坊やと白鼠の実験)
物議を醸した赤子を利用したジョン・ワトソンの実験で知られる条件付け。条件刺激に身体的な苦痛を用いて恐怖反応をおこす方法。
アルバート坊やと白鼠の実験
生後9ヶ月の子供がネズミと遊んでいるときに苦痛と感じるレベルの強い金属音を鳴らすということを繰り返す。2ヶ月後この子供はネズミを見るだけで怖がるようになった。
・無条件反応=苦痛を伴う強い金属音
・条件刺激=ネズミ
・条件反応=恐怖反応
苦痛を伴う強い金属音を無条件刺激としてネズミが条件刺激になり、怖がるという恐怖反応(条件反応)が条件づけられた。
●味覚嫌悪条件付け(ガルシア効果)
心理学者のガルシアが発見したことからガルシア効果とも呼ばれる。何かを食べた後に体調不良などを経験すると、食べた物の味に体調不良という条件刺激が結びついて条件反応としてその食べ物を食べなくなる(嫌いになる)。
例:リンゴを食べた後、車酔いで嘔吐した。その後リンゴが食べられない。
味覚嫌悪条件付けは、1回の経験だけで形成されます。とても強く条件付けされるため消去されにくいことが特徴で、子供のころの味覚嫌悪条件付けが偏食の原因にもなります。
●高次条件付け
条件付けられた条件刺激にさらに別の条件刺激を対提示することで形成される条件付けを高次条件付けといいます。初めの条件付けを「1次条件付け」として2次以降の条件付けが高次条件付けです。
1次条件付け:エサとベルを対提示してベルを条件刺激にして条件反応(ヨダレ)を得る
2次条件付け:ボールを見せた後にベルを鳴らして、ボールとベルを対提示する⇒ボールが条件刺激になってボールを見ただけで条件反応(ヨダレ)を得る
- ・1次条件付け:エサ+ベル⇒ベル(CS1)でヨダレ
- ・2次条件付け:ベル+ボール⇒ボール(CS2)でヨダレ
- ・3次条件付け:ボール+ぬいぐるみ⇒ぬいぐるみ(CS3)でヨダレ
- ※実際には、この例の3次条件付けは不可能
●古典的条件付けの汎化
類似した刺激に対して条件反応を起こすこと
例:違う音色のベルを鳴らしても条件反応(ヨダレ)が現れた
●古典的条件付けの消去
条件付けで得られた条件反応(行動)が生じなくなること
消去の方法:条件刺激のみを単独で提示する
★消去は行動が消えたのではなく、再学習の結果としての新しい行動と考える。
古典的条件付けを利用した治療法
漸進的筋弛緩法
漸進的筋弛緩法は、エドモンド・ジェイコブソンが提唱したリラクセーション法で、筋肉の「力を入れる」と「力を抜く」を繰り返し行うことにより緊張をほぐしリラックスに導く方法です。
一次的な緊張の緩和だけではなく、力を入れた「緊張」と力を抜いた「弛緩」の感覚を自分の中で感じられるようになると、余分な緊張をセルフコントロールできるようになります。それがこの療法の目的です。
●漸進的筋弛緩法の手順や詳細はこちら⇒漸進的筋弛緩法
系統的脱感作法
系統的脱感作法は、精神科医ジョゼフ・ウォルピが提唱した、暴露法(エクスポージャー法)とリラクセーション法を組み合わせた行動療法です。主に強迫性障害や恐怖症を対象にしており、不安階層表という表にストレスの強い場面を設定し段階的に克服していく手段です。
●系統的脱感作法の詳細はこちら⇒系統的脱感作法
まとめ
改めて、古典的条件付けは「無条件刺激に条件刺激を対提示することにより、条件反応を形成し中性刺激が無条件反応を誘発する刺激になる手続き」です。
パブロフやワトソンを始めに、さまざまな条件付けが研究されており、そのごく一部を紹介させていただきました。パブロフの犬からスタートした古典的条件付けは、現在では認知行動療法の治療技法として使われるなど心理治療の分野では欠かせない概念となっています。
続いて次のページでは、古典的条件付けに続き道具的条件付けとも呼ばれる「オペラント条件付け」を紹介したいと思います。
▶次の記事へ⇒オペラント条件付け